
AIの普及で、採用の現場は大きく揺れている。
かつて「エントリーシートから意欲を読み取る」という、よく考えるとかなり怪しい評価方法が使われてきたけれど、生成AIによってあっさり無効化されてしまった。求職者にしてみればChatGPTに質問を投げれば、もっともらしい志望動機が整った文章になって返ってくる。採用担当者の立場からすると、見かけの言葉で本音や熱意を判別するのは、もう不可能に近い。
さらに本人確認用の写真も、AIの画像生成や修正で「整った顔写真」が簡単に作れてしまう。もちろん完全に別人というわけにはいかないだろうけれど、少し印象を変える程度の加工なら誰でも手を伸ばせる。そうなると履歴書に書かれている住所や学歴、職歴ぐらいしか「生身の証拠」として残らない。ただしこれも、性善説に立つのが現状だ。
当社のようなWeb制作会社の採用だと、これまでも任意提出としてきたポートフォリオがひとつの判断材料になる。実際にどんなサイトを作れるのか、どうデザインするのかがわかるからだ。ただし、AIコーディングに全面的に頼ったポートフォリオは、ぱっと見はきれいでも基礎力の欠如が透けて見えてしまう。依頼者の要望を翻訳して、設計して、実装までやり切るという筋力がないと、プロジェクトを任せるのは難しい。
AIを使いこなすことは、これからどんな職種でも必須の技能になるだろう。効率化のためにも、発想を広げるためにも、AIを味方にする姿勢は欠かせない。ただしそこで終わってしまう人──つまりAIに頼ってばかりで、自分の地力を磨くことを怠る人は、採用する側としてはどうしても不安を覚える。本質的な力を持たないままAIを使うと、結果は「それっぽいけど脆い」アウトプットになってしまうからだ。
では、これからの採用はどう変わっていくのか。AIが当たり前になればなるほど、逆説的に「一発勝負」の評価が重視されるのかもしれない。SPIやコーディング試験、デザイン課題といったものを実際にその場でやってもらう。そこで地力が見えるかどうか。そんな方向に採用の重心が移っていくのだろう。
AIがもたらした変化は、応募者にとっても企業にとっても大きい。
けれど結局のところ、求められるのは昔から変わらない「自分の力で最後までやり切る」ことなのだろう。
コメントを残す